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赤ちゃんの歯の手入れはいつから?歯科衛生士が教える「嫌がらない」コツと虫歯予防の全て

  • 小児歯科

こんにちは。熊本県上益城郡の歯医者、ひがし歯科医院の歯科衛生士 大野です。当院には、小さなお子様をお持ちの親御さんも多く来院されますが、その際、最も多くいただくご質問の一つが、赤ちゃんのお口のケアに関するものです。「赤ちゃんの歯の手入れって、いつから始めたらいいですか?」「歯が生えてきたけれど、歯磨きはどうすれば…?」「嫌がって泣いてしまい、うまく磨けません」…初めての育児では、分からないことだらけですよね。特にお口のケアは、赤ちゃんの機嫌にも左右されるため、悩んでいるお母さん・お父さんは本当に多くいらっしゃいます。乳歯はいずれ生え変わるから、と軽く考えてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、それは大きな間違いです。乳歯の健康は、その後の永久歯の歯並びや、顎(あご)の発育、さらには全身の健康にまで、非常に大きな影響を与えます。 赤ちゃんの頃から正しいケアを習慣づけることが、お子様の一生涯の財産になるのです。今回は、歯科衛生士の立場から、いつから、何を、どのように始めればよいのか、そして「嫌がられない」ためのコツや、虫歯予防のために知っておくべき生活習慣まで、詳しく解説していきます。

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目次

  1. 歯が生える前からが勝負!「授乳期」のお口ケアとスキンシップ
  2. 「こんにちは!」最初の乳歯が生えてきたら(生後6ヶ月頃~)
  3. 「イヤイヤ期」の仕上げ磨き。泣いても大丈夫!安全に磨くコツ
  4. 虫歯は「うつる」病気?虫歯菌をうつさないための生活習慣
  5. 歯科医院デビューはいつ?フッ素塗布と定期検診の重要性
  6. まとめ

1. 歯が生える前からが勝負!「授乳期」のお口ケアとスキンシップ

「まだ歯が生えていないのに、お口のケアなんて必要あるの?」と驚かれるかもしれません。しかし、私たちは、歯が生える前の、新生児期からの口腔ケアを強くお勧めしています。もちろん、この時期のケアは、虫歯予防そのものが直接の目的ではありません。最大の目的は二つあります。一つは、お口の中を清潔に保つこと。そしてもう一つが、「お口の中を触られること」に赤ちゃん自身が慣れるための、大切な「習慣づけ」と「スキンシップ」です。赤ちゃんは、お口の中を触られることに非常に敏感です。いきなり歯ブラシを入れられると、驚いて拒否反応を示してしまうのは当然のことです。歯が生える前から、優しくお口に触れる習慣をつけておくことで、その後の歯磨きへの抵抗感を格段に減らすことができます。また、授乳期は、母乳やミルクの飲みカスが舌の上や上顎に残りやすく、それが「鵞口瘡(がこうそう)」というカビの一種(カンジダ菌)が繁殖する原因になることもあります。これらを優しく拭き取ってあげることも、お口の健康を守る上で大切です。具体的なケアの方法は、とても簡単です。清潔なガーゼや、市販の赤ちゃん用のお口拭きシート(コットン)を、お母さん・お父さんの人差し指に巻き付け、ぬるま湯や水で軽く湿らせます。そして、赤ちゃんの機嫌が良い時、例えば、沐浴(お風呂)の時間などを利用して、優しくお口の中を拭ってあげてください。まずは唇の周りから始め、慣れてきたら、歯茎(歯ぐき)や、頬の内側、舌の上、上顎などを、なでるように優しく拭います。決してゴシゴシと強くこする必要はありません。「きれいになろうね」「気持ちいいね」と優しく声をかけながら、遊びの延長のように、リラックスして行うことが何よりも大切です。この毎日の数秒のスキンシップが、将来の歯磨き習慣への、最も重要な第一歩となります。

2. 「こんにちは!」最初の乳歯が生えてきたら(生後6ヶ月頃~)

生後6ヶ月前後になると、いよいよ下の前歯から、可愛らしい最初の乳歯(乳切歯)が生え始めます。この「歯の萌出(ほうしゅつ)」こそが、本格的なお口のケアのスタート合図です。「歯が生えてきた!」と気づいたら、その日から歯磨きを開始しましょう。なぜなら、歯は生えた瞬間から、虫歯になるリスクにさらされるからです。特に、生えたての歯は、歯の表面(エナメル質)がまだ未成熟で柔らかく、酸に弱いため、非常に虫歯になりやすいデリケートな状態です。この時期のケアが、歯の運命を左右すると言っても過言ではありません。最初は、これまで使っていたガーゼで、歯の表面に付いた汚れを拭き取ることから始めます。そして、徐々に「歯ブラシ」へと移行していきましょう。最初から大人のような歯ブラシを使うのは困難ですので、赤ちゃん用の歯ブラシを選びます。ヘッド(ブラシ部分)が小さく、毛が柔らかい「仕上げ磨き用歯ブラシ」や、赤ちゃんが握りやすい形状の「本人用歯ブラシ」、あるいは、指にはめて使う「シリコン製歯ブラシ」なども良いでしょう。本人用歯ブラシは、あくまで「歯ブラシに慣れるためのおもちゃ」として持たせ、安全な場所で保護者の監督のもと、カミカミさせてあげる程度にします。実際の清掃は、必ず保護者の方が「仕上げ磨き」として行ってください。この時期から、**フッ素入りの歯磨剤(歯磨き粉)**の使用も推奨されています。驚かれるかもしれませんが、現在のガイドラインでは、歯が生えたらすぐに、ごく少量のフッ素入り歯磨剤の使用が推奨されているのです。使用する量は、米粒一つ分(米粒大)のごく少量です。これを歯ブラシの先端につけ、歯の表面に薄く塗り広げるように磨きます。うがいができない時期ですので、泡立ちの少ないジェル状やフォーム状のものが使いやすいでしょう。この米粒大の量であれば、万が一飲み込んでしまっても、安全性に問題はありません。フッ素には、歯の質を強くし、初期の虫歯を修復する「再石灰化」を促進する、非常に重要な効果があります。正しい知識で、フッ素を味方につけましょう。

3. 「イヤイヤ期」の仕上げ磨き。泣いても大丈夫!安全に磨くコツ

乳歯が生えそろってくる1歳半~3歳頃は、自我が芽生え、「魔の2歳児」とも呼ばれる「イヤイヤ期」と重なります。この時期、「歯磨きをしようとすると、顔を背けて逃げ回る」「口を固く閉じて開けてくれない」「無理やり磨こうとすると、火がついたように泣き叫ぶ」…そんなお子様の姿に、多くの親御さんが頭を抱え、疲れ果ててしまうことでしょう。「泣かせてまで、無理やり磨くのは可哀想…」「トラウマになったらどうしよう」と、つい歯磨きを諦めてしまいがちになるお気持ち、本当によく分かります。しかし、ここで諦めてしまうと、あっという間に虫歯はできてしまいます。歯科衛生士として、まずお伝えしたいのは、**「泣いても大丈夫、短時間で良いので、毎日必ず磨いてあげてください」**ということです。お子様が泣くのは、「痛い」からではなく、「嫌だ」「やりたくない」という意思表示です。ここで、「泣いたらやめてもらえる」という学習をさせてしまうと、その後の習慣づけがさらに困難になります。「歯磨きは、ご飯を食べたら必ずやること」という毅然とした態度で、生活のルーティーンとして組み込むことが大切です。ただし、無理やり押さえつけて長時間格闘する必要はありません。目標は「短時間で、効率よく、安全に」汚れを落とすことです。そのための最大のコツは、歯磨きの「体勢(ポジション)」です。立たせたままや、座らせたままでは、お子様が動いてしまい、お口の中もよく見えません。最も安全で効率的なのは、「寝かせ磨き」です。お母さん・お父さんの膝の上に、お子様の頭を乗せて仰向けに寝かせます。この体勢なら、両手(あるいは両足)でお子様の体を優しく固定でき、お口の中が上からしっかりと見渡せます。そして、片方の手でお子様の上唇や頬を優しく指で排除し(「指でガードする」イメージです)、歯と歯茎の境目が見えるようにして、もう片方の手で歯ブラシを持ち、小刻みに動かします。特に汚れが溜まりやすく、虫歯になりやすい「上の前歯の歯と歯茎の境目」と、「奥歯の溝」は、重点的に磨きましょう。歌を歌いながら、数を数えながら、終わったら「ピカピカになったね!」「すごいね!」と思いっきり褒めてあげる。このメリハリが大切です。泣いて暴れてしまう時期は、親御さんにとっても辛い試練の時ですが、必ず「上手に磨かせてくれる日」が来ます。私たち歯科医院も、正しい磨き方や、お子様への対応の仕方を、一緒に練習させていただきますので、一人で抱え込まず、いつでもご相談ください。

4. 虫歯は「うつる」病気?虫歯菌をうつさないための生活習慣

赤ちゃんの歯の手入れについてお話ししてきましたが、歯磨きという「防御」の側面と同時に、虫歯の原因となる「攻撃因子」を減らす、という視点も非常に重要です。実は、生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、虫歯の原因となる「ミュータンス菌」は一匹も存在しません。 では、どこからやってくるのでしょうか。その答えは、「主に、お母さんやお父さん、周囲の大人からの唾液を介した感染(垂直感染)」です。ミュータンス菌は、食べ物や飲み物と一緒にお口に入ることで、歯の表面に定着します。特に、生後1歳半~2歳半頃は、乳歯が生えそろい、ミュータンス菌が最も定着しやすい時期で、「感染の窓」と呼ばれています。この時期に、周囲の大人の唾液に多く含まれるミュータンス菌が、お子様のお口に大量に移行してしまうと、将来的な虫歯リスクが非常に高くなることが分かっています。具体的には、以下のような行為は、細菌感染のリスクを高めるため、避けるべきです。

  • スプーンや箸、コップなどの食器の共有
  • 熱い食べ物を、大人が口でフーフーして冷ましてから与える
  • 大人が口で噛み砕いた食べ物を与える

「可愛い孫だから」と、おじいちゃんやおばあちゃんが、ご自身の使っているお箸で食べ物を与えてしまう光景も、残念ながら見受けられます。これは、愛情表現どころか、お子様に虫歯菌をプレゼントしてしまっているのと同じ行為なのです。もちろん、日常生活での接触を100%防ぐことは不可能ですし、神経質になりすぎる必要もありません。しかし、こうした明らかな「唾液の交換」は、意識すれば防げることです。そして、何よりも大切なのは、お子様と接する周囲の大人(特に親御さん)ご自身のお口の中が、清潔に保たれていることです。大人が虫歯だらけ、歯周病だらけの状態では、お口の中の細菌数も多く、お子様への感染リスクは高まる一方です。お子様の歯を守るための第一歩は、まず親御さんご自身が、歯科医院で定期的なクリーニングや治療を受け、お口の健康を維持することから始まります。

5. 歯科医院デビューはいつ?フッ素塗布と定期検診の重要性

「子供の歯医者デビューは、いつ頃がいいですか?」これも、非常によくいただくご質問です。私たちは、「最初の乳歯が生えてきたタイミング(生後6ヶ月~8ヶ月頃)」、あるいは、**遅くとも「3歳まで」**の歯科医院デビューをお勧めしています。

「えっ!そんなに早くから?虫歯もないのに?」と驚かれるかもしれません。しかし、これからの時代の歯科医院は、「虫歯になってから、痛くなってから行く場所」ではありません。「虫歯にならないために、痛い思いをしないために、予防のために通う場所」なのです。

この早い時期から歯科医院に通うことには、たくさんのメリットがあります。

  • メリット①:お子様が「歯医者さん」に慣れる これが最大の目的かもしれません。痛い治療の経験がない、楽しい時期から通い始めることで、「歯医者さんは、怖くない、楽しい場所」というポジティブなイメージを植え付けることができます。これが、将来的な歯科医院への抵抗感をなくし、定期検診の習慣化に繋がります。
  • メリット②:専門家によるプロフェッショナルケア(フッ素塗布) 生えたての乳歯は、まだ質が弱く、酸に非常に弱いです。この時期に、高濃度の「フッ素」を定期的に歯の表面に塗布することで、歯の質を強化(耐酸性の向上)し、初期の虫歯を修復(再石灰化の促進)する、絶大な虫歯予防効果が期待できます。これは、ご家庭で使用するフッ素入り歯磨剤と合わせて行うことで、より強固な予防体制を築くことができます。フッ素塗布の費用は、自治体によっては助成がある場合もありますが、一般的には数千円程度で、治療に比べれば経済的な負担も、身体的・精神的な負担も、はるかに少なく済みます。
  • メリット③:保護者の方への専門的なアドバイス 歯科衛生士の視点から、お子様のお口の状態に合わせた、仕上げ磨きの具体的な方法やコツを、実際に一緒に練習しながらお伝えします。また、離乳食の進め方、おやつの選び方、飲み物の与え方など、日常生活における虫歯予防のアドバイスも行います。
  • メリット④:早期発見・早期対応 歯並びの問題(指しゃぶりや舌の癖による影響など)や、お口の機能の発達(唇を閉じる力、飲み込み方など)についても、早い段階からチェックし、必要であれば適切なトレーニング(口腔筋機能療法:MFT)などをご提案することで、将来的な大きな問題を防ぐことができます。

治療期間は、検診とフッ素塗布、ブラッシング指導などで、おおよそ30分程度です。これを、お口の状態に合わせて、3ヶ月~半年に1回のペースで継続していくことが、お子様の歯を守るための、最も確実な投資となります。

6. まとめ

赤ちゃんのデリケートなお口のケア、そして虫歯予防について、ご理解いただけたでしょうか。最後に、歯科衛生士からの大切なメッセージをまとめます。

  1. お口のケアは、歯が生える前(新生児期)から、ガーゼ磨きで「習慣づけ」をスタートしましょう。
  2. 最初の乳歯が生えたら、その日から「仕上げ磨き用歯ブラシ」と、米粒大のフッ素入り歯磨剤を使って、歯磨きを開始します。
  3. イヤイヤ期で泣かれても、「寝かせ磨き」の体勢で、短時間で良いので、毎日必ず磨き上げましょう。親御さんの毅然とした態度と、終わった後の褒め言葉が鍵です。
  4. 虫歯菌は、大人の唾液を介してうつります。 食器の共有などを避け、まずは周囲の大人がお口を清潔に保つことが、最大の予防になります。
  5. 歯医者デビューは「最初の歯が生えたら」。痛くなる前に、「予防」のために通う習慣をつけ、定期的なフッ素塗布で、お子様の歯を強固に守りましょう。

育児に、お仕事に、毎日忙しい中で、お子様のお口のケアまで完璧に行うのは、本当に大変なことだと思います。決して、一人で完璧を目指そうと、抱え込まないでください。私たち、ひがし歯科医院のスタッフは、「お子様の歯を虫歯から守りたい」と願う、お母さん・お父さんの、一番の味方であり、サポーターです。磨き方一つ、おやつの選び方一つ、どんな些細な悩みでも、お気軽に私たちにご相談ください。一緒に、お子様の大切な歯を、そして最高の笑顔を守り育てていきましょう。