妊娠期における歯周病のリスク
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①妊娠期における歯周病のリスク
近年、日本では早産・低体重児(低出生体重児)出産の割合が増加しています。世界保健機関(WHO)の分類で、「早産」は妊娠22〜37週未満の出産、「低体重児出産」は2500g未満の出産と定義づけられています。その原因として、年齢、喫煙、飲酒、生殖器感染、痩せすぎ(BMI18.5以下)などがあげられています。そして、歯周病も早産・低体重児出産の原因の1つの可能性があると考えられています。通常の出産では、出産食前に子宮内の炎症性物質(プロスタグランジンE2)などの増加により、子宮頸管の熟化や子宮収縮が促されることにより分娩を誘発します。ところが、歯周病に罹患している妊婦の場合は、歯周組織で産生された炎症性物質が血流を介して子宮を刺激し、早産・低体重児出産を引き起こす可能性があると言われています。
妊娠期には、黄体ホルモン(プロゲステロン)は月経周期ピーク時の約10倍、卵胞ホルモン(エストロゲン)は約30倍に増加します。血中濃度と同様に、唾液中の女性ホルモンも妊娠1ヶ月から上昇し、妊娠9ヶ月でピークに達すると報告されています。妊娠期の女性ホルモンの劇的な増加に伴い、歯周病原細菌プレボテラ・インターメディアが増殖します。特に前歯部で歯肉の炎症が顕著に見られ、妊娠性鼻炎による口呼吸の増加に伴い、前歯部の炎症が悪化することが多くなります。さらに、母体の免疫システムが変化しているのも、歯肉の炎症が増す原因と考えられ「妊娠関連歯肉炎」の発症率は高く、妊婦の35〜75%で発症するといわれています。また、妊娠前の歯周組織の状態は歯周病の進行と重症度に影響します。さらに、出産回数が増加するほど、残存歯数が減少するといった報告もあります。
②妊娠期における口腔衛生管理
妊娠期には通常の月経周期より歯肉の炎症が起きやすいため、特にセルフケアの強化が必要となります。さらに、妊娠中は唾液量が減少し口腔内の乾燥感を感じる割合が多いため、口腔粘膜を刺激するアルコール含有洗口剤の使用は控えます。
妊娠初期はつわりで胃の内容物の嘔吐を繰り返すことにより、口腔内が酸性に傾きやすくなります。さらに、一度にたくさんの食事が摂れないために、食事回数や間食が増加し、う蝕のリスクも高まります。そのため、味覚や食事の変化を把握し、その状況にあったセルフケアを行う必要があります。
妊娠初期(1〜4ヶ月)および妊娠末期(8ー10ヶ月)の間は、歯肉縁上のプラークコントロール以外の歯科治療はできるだけ避け、SRPやその他の歯科治療は妊娠中期(5〜7ヶ月)に行うことが推奨されます。妊娠初期は、胎児の器官形成の時期であり妊娠末期は早産の危険性があるため、刺激を与えないように、これらの時期には歯肉縁下処置は避けたほうがよいと考えられます。
妊娠中期に行われる妊婦へのSRPなどの観血的歯周治療(非外科治療)は比較的安全とされ、妊婦の歯周組織状態の改善は有用です。しかしながら、早産・低体重児出産の予防を目的とした積極的な歯周治療は、その効果の点から推奨されていません。そのため、妊娠を考えている女性の場合は、妊娠前に歯周病予防および治療を行い、セルフケアにより健康な歯周組織を保つことが大切です。
妊娠末期の歯科治療を行う場合は、仰向けにすると子宮が下大静脈を圧迫し、心臓への循環血流量が減少するため、顔面蒼白、冷汗、嘔吐などを引き起こす低血圧状態となる可能性があります。右骨盤を上げるように枕やタオルを置くなど、患者さんの姿勢にも十分気をつけて行っています。
つわり時には、、、
☑️体調のよいときに歯磨きをする
☑️顔を下に向けてブラッシングする(唾液が溜まるとその刺激で吐き気が起きることがある)
☑️吐き気を感じやすい臼歯部は最後にブラッシングする
☑️嘔吐後はうがいを十分に行い、30分は歯磨きをしない(酸蝕症を引き起こすリスクがある)
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