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妊娠中の口腔内トラブルはなぜ起こる?赤ちゃんを守るマタニティ歯科ケアと治療のタイミング

  • 予防歯科

更新日:2026年7月6日

こんにちは。熊本県上益城郡の歯医者、ひがし歯科医院の歯科衛生士大野です。

当院には、これから新しい命を迎えるプレママの患者様が、妊婦歯科健診や日々の診療で数多くご来院されます。その際、カウンセリングルームで皆様から非常によく寄せられるのが、「妊娠してから急に歯茎から血が出るようになりました」「つわりがひどくて歯ブラシを口に入れるだけで吐き気がしてしまい、虫歯にならないか不安です」「妊娠中に歯医者でレントゲンを撮ったり麻酔をしたりしても、お腹の赤ちゃんに影響はないのでしょうか」という、妊娠期特有のお口のトラブルと治療の安全性に関するご相談です。

妊娠という素晴らしい出来事は、女性の身体に大きな変化をもたらします。その変化はお口の中にも現れており、妊娠中は虫歯や歯周病のリスクが高まりやすい時期です。さらに、お母様のお口の健康状態が悪化すると、それは単なる歯の痛みや歯茎の腫れだけでなく、お腹の赤ちゃんの成長や出産にも関係する可能性があります。

しかし、ご安心ください。妊娠中にお口のトラブルが起きる仕組みを正しく理解し、ご自身の体調に合わせた無理のないケア方法を取り入れ、適切な時期に歯科医院で専門的なサポートを受けることができれば、お母様の歯と赤ちゃんの未来の健康を守ることは十分に可能です。本記事では、妊婦さんのケアを行う歯科衛生士の視点から、妊娠中の口腔内トラブルの原因、歯周病と妊娠の関係、そして体調に合わせた具体的なケアの選択基準について詳しく解説いたします。この記事が、熊本県上益城郡周辺で妊娠中のお口の不安を抱える皆様にとって、安心で健やかなマタニティライフを送り、笑顔で赤ちゃんを迎えるための参考になれば幸いです。

目次

1. 結論:妊娠中の口腔内トラブルはホルモン変化が関係します

結論から申し上げますと、妊娠中に増えやすい歯茎の腫れや虫歯といった口腔内トラブルは、患者様が歯磨きを怠ったからだけで起きるものではありません。妊娠に伴う女性ホルモンの増加、つわりによる生活習慣の変化、唾液の性質の変化などが重なって起こりやすくなる、妊娠期特有の身体の変化です。

特に注意したいのが、妊娠性歯肉炎です。妊娠性歯肉炎とは、妊娠初期から中期にかけて分泌が増えるエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの影響により、歯茎が炎症を起こしやすくなる状態です。歯茎が赤く腫れる、歯磨きのときに出血する、口の中がネバつく、口臭が気になるといった症状が出ることがあります。

妊娠中は、これまでと同じように歯磨きをしていても、歯茎の毛細血管が敏感になり、少しブラシが当たっただけで出血しやすくなることがあります。また、つわりの影響でお口の奥に歯ブラシを入れることが難しくなり、どうしても磨き残しが増えてしまう方も少なくありません。

この時期に大切なのは、完璧な歯磨きを目指してご自身を追い詰めることではありません。体調が悪い日は小さな歯ブラシを使う、歯磨き粉を使わずに磨く、うがいをこまめに行うなど、できる範囲でお口の中を清潔に保つことが大切です。そして、つわりが落ち着いた安定期に歯科医院で専門的なクリーニングや必要な治療を受けることが、妊娠中のお口のトラブルを防ぐための現実的な方法です。

2. 歯周病が妊娠中に注意すべき理由

妊娠中のお口のトラブルの中でも、特に注意したいのが歯周病です。歯周病は、お母様の歯茎や歯を支える骨に影響するだけでなく、妊娠経過にも関係する可能性があると考えられています。

歯周病が進行すると、歯茎に慢性的な炎症が起こります。炎症が強くなると、身体はその炎症に反応して、炎症性物質を出します。その中には、子宮の収縮に関係するとされる物質も含まれています。そのため、歯周病を放置することは、早産や低体重児出産のリスクと関連する可能性があると指摘されています。

もちろん、歯周病があるから必ず早産になるというわけではありません。しかし、妊娠中はお母様の身体も赤ちゃんの身体も非常にデリケートな時期です。少しでもリスクを減らすために、お口の中の炎症をコントロールしておくことはとても大切です。

また、出産後のことを考えても、妊娠中のお口のケアは重要です。赤ちゃんのお口の中には、生まれた直後から虫歯菌がいるわけではありません。虫歯菌は、主に周囲の大人の唾液を通じて赤ちゃんへうつることがあります。お母様のお口の中の虫歯菌や歯周病菌を妊娠中から減らしておくことは、赤ちゃんの将来の虫歯予防にもつながります。

つまり、妊娠中の歯科ケアは、お母様の歯を守るためだけではありません。安全な出産に向けた体調管理、そして生まれてくる赤ちゃんのお口の健康を守るための準備でもあります。

3. なぜ妊娠すると虫歯や歯茎の腫れが起きるのか

初めての妊娠を経験され、お口の急激な変化に戸惑っているプレママの皆様に向けて、なぜ妊娠すると虫歯や歯周病が進行しやすくなるのかを、わかりやすく解説いたします。

第一の理由は、女性ホルモンの変化です。妊娠すると、赤ちゃんを育てるためにエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが増加します。このホルモンの変化によって歯茎が敏感になり、歯垢、つまりプラークが少し残っているだけでも炎症が起きやすくなります。そのため、妊娠前には問題がなかった方でも、妊娠中に歯茎が腫れたり、出血したりすることがあります。

第二の理由は、つわりによるお口の中の酸性化です。妊娠初期のつわりの時期は、吐き気や嘔吐によって胃酸がお口の中に逆流しやすくなります。胃酸は非常に強い酸性のため、歯の表面のエナメル質が弱くなりやすく、虫歯のリスクが高まります。また、食べづわりがある方は、空腹時の気持ち悪さを避けるために、少量の食べ物を何度も口にすることがあります。食事や間食の回数が増えると、お口の中が酸性になっている時間が長くなり、虫歯ができやすくなります。

第三の理由は、歯磨きが難しくなることです。つわりが強いと、歯ブラシを口に入れるだけで吐き気が出ることがあります。特に奥歯を磨くことが難しくなり、磨き残しが増えやすくなります。さらに、妊娠中は唾液がネバネバしやすくなり、お口の中の汚れを洗い流す力が弱くなることもあります。

このように、妊娠中はホルモン変化、つわり、食生活の変化、唾液の変化が重なり、虫歯や歯茎の腫れが起こりやすくなります。だからこそ、妊娠中は「いつも以上にお口の中が不安定になりやすい時期」と考え、体調に合わせたケアを行うことが大切です。

4. つわり期と安定期の口腔ケアの違い

妊娠中は、時期によって体調やお口の状態が大きく変わります。そのため、妊娠前と同じケアを無理に続けようとするのではなく、つわり期と安定期でケアの方法を変えることが大切です。

つわりが激しい妊娠初期は、無理をしすぎないことが最優先です。この時期は、歯ブラシをお口に入れるだけで吐き気が出ることがあります。通常サイズの歯ブラシや香りの強い歯磨き粉がつらい場合は、子ども用の小さなヘッドの歯ブラシを使ったり、歯磨き粉を使わずに水だけで磨いたりしてみてください。どうしても磨けない日は、低刺激の洗口液や水でしっかりうがいをするだけでも、お口の中の酸を洗い流す助けになります。

一方で、体調が比較的落ち着く妊娠中期、いわゆる安定期は、歯科医院での検診や治療を受けやすい時期です。つわりが落ち着き、お腹もまだ大きくなりすぎていないこの時期に、妊婦歯科健診を受け、虫歯や歯周病の有無を確認しておくことをおすすめします。必要に応じてクリーニングを行い、つわり期間中に溜まった歯石やプラークを取り除いておくことで、妊娠後期や出産後のトラブルを防ぎやすくなります。

つわり期と安定期のケア比較

比較項目 つわり期 安定期
基本方針 無理をせず、できる範囲でお口を清潔に保つ 検診やクリーニングを受け、必要な治療を進める
歯ブラシ 小さめの歯ブラシや子ども用歯ブラシがおすすめ 通常の歯ブラシに加え、フロスや歯間ブラシも活用
歯磨き粉 香りがつらい場合は使わなくてもよい フッ素入り歯磨き粉を使い、虫歯予防を意識する
歯科受診 強い痛みや腫れがある場合は応急処置を相談 妊婦歯科健診、クリーニング、必要な虫歯治療に適した時期
注意点 完璧を目指さず、うがいだけでも続ける 長時間の治療は避け、体調に合わせて短時間で進める

この比較からわかるように、つわり期は「できる範囲で守る時期」、安定期は「歯科医院で整える時期」と考えるとわかりやすいでしょう。無理をせず、時期に合った方法でケアを続けることが、妊娠中のお口の健康を守る大切なポイントです。

5. 妊婦歯科健診と治療のメリット・デメリット

妊娠中に歯科医院へ通い、妊婦歯科健診や必要な治療を受けることには、多くのメリットがあります。一方で、妊娠中だからこそ注意すべき点もあります。ここでは、身体的、経済的、精神的な面から整理してお伝えします。

身体的なメリットは、歯科医院で歯石やプラークを取り除くことで、妊娠性歯肉炎を改善しやすくなることです。歯茎の炎症が落ち着くと、出血や腫れ、口臭の改善にもつながります。また、虫歯の進行を早めに止めておくことで、妊娠後期や出産後に強い痛みに悩まされるリスクを減らすことができます。

一方で、身体的な注意点としては、診療用の椅子に仰向けで長時間寝ることがつらい場合があることです。妊娠後期になると、お腹の重みによって血管が圧迫され、気分が悪くなることがあります。そのため、歯科医院ではクッションを使ったり、椅子を完全に倒さずに治療したり、一回の治療時間を短くしたりする配慮が必要です。体調がすぐれない場合は、遠慮なくお伝えください。

経済的な面では、自治体によっては妊婦歯科健康診査の受診券が配布され、費用の一部または全額が補助される場合があります。妊娠中に虫歯や歯周病を見つけておくことで、出産後に赤ちゃんのお世話で忙しい時期に、何度も治療に通わなければならない状況を避けやすくなります。一方で、健診で虫歯や歯周病が見つかり、実際に治療を行う場合は、通常の保険診療として窓口負担が発生することがあります。

精神的なメリットは、「妊娠中に歯が痛くなったらどうしよう」「赤ちゃんに影響がないか心配」という不安を軽くできることです。歯科医院でお口の状態を確認し、必要なケアを受けておくことで、安心して出産に臨みやすくなります。一方で、歯科治療に対する怖さや、大きなお腹で外出することへの不安を感じる方もいらっしゃいます。そのような場合は、無理のない時間帯や体調の良い日を選んで受診しましょう。

6. 具体的な治療例と期間

ここでは、妊娠中に歯科医院でケアを受ける場合の一般的な流れを、具体例としてご紹介します。実際の治療内容は、お母様の体調、妊娠週数、虫歯や歯周病の状態によって異なります。

たとえば、妊娠5ヶ月の安定期に入ったばかりの30代の患者様が、つわりの期間に歯磨きが十分にできず、冷たい水を飲むと右下の奥歯がしみるようになり、歯茎全体も赤く腫れている状態でご来院されたケースを考えてみます。自治体の妊婦歯科健診の受診券をお持ちいただき、まずはお口全体の状態を確認します。

当院では、母体に負担をかけないよう、診療台を水平に倒しすぎず、患者様が息苦しくない角度に調整します。初日は、歯の表面と歯茎の溝に溜まった歯石やプラークをやさしく取り除き、妊娠性歯肉炎の改善を目指します。その後、しみる奥歯を確認し、虫歯の進行度を調べます。

虫歯が小さく、緊急性が低い場合は、経過観察や応急的な処置にとどめることもあります。一方で、出産後まで放置すると神経に近づく可能性がある虫歯の場合は、安定期のうちに治療を済ませることを検討します。必要に応じて局所麻酔を使用し、虫歯の部分を取り除いて、白いプラスチック、つまりコンポジットレジンで詰める治療を行うことがあります。

妊娠中の治療は、なるべく通院回数を少なくし、一回あたりの治療時間も短めにすることが基本です。軽度から中等度の虫歯治療や歯茎のケアであれば、数回の通院で完了する場合があります。ただし、強い痛みがある場合、歯の神経まで虫歯が進行している場合、歯周病が重度の場合は、治療回数が増えることもあります。

大切なのは、「妊娠中だから歯科治療はすべて避ける」と考えるのではなく、「妊娠週数と体調に合わせて、安全にできる範囲で必要な治療を行う」という考え方です。痛みや不安を我慢せず、まずは歯科医院に相談することをおすすめします。

7. 患者様からよくある質問

Q1. 妊娠中に歯科のレントゲンを撮っても大丈夫ですか。

歯科医院で撮影するレントゲンは、お口の周りを対象にしたもので、お腹から離れた部位を撮影します。また、必要に応じて防護エプロンを使用し、できるだけ安全に配慮して行います。診断に必要な場合は、妊娠中であることを歯科医師に伝えたうえで、必要性を確認してから撮影を受けると安心です。不安がある場合は、撮影前に遠慮なくご相談ください。

Q2. 虫歯治療で麻酔をしても赤ちゃんに影響はありませんか。

歯科治療で使用する麻酔は、治療する部分に効かせる局所麻酔です。一般的には、妊娠中でも必要に応じて使用されることがあります。むしろ、強い痛みを我慢しながら治療を受けることは、お母様のストレスにつながる場合があります。麻酔が必要な治療では、妊娠週数や体調を確認しながら、できるだけ負担の少ない方法で進めます。

Q3. 妊娠中はいつ歯科医院に行くのがよいですか。

つわりが強い妊娠初期は、無理に長時間の治療を受ける必要はありません。ただし、強い痛みや腫れがある場合は、応急処置が必要になることもあります。比較的治療を受けやすいのは、つわりが落ち着き、お腹も大きくなりすぎていない安定期です。妊婦歯科健診やクリーニング、必要な虫歯治療は、この時期に相談するとよいでしょう。

Q4. 出産後、赤ちゃんに虫歯菌がうつることはありますか。

生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、虫歯菌はほとんど存在しません。虫歯菌は、周囲の大人の唾液を通じて赤ちゃんへうつることがあります。特に乳歯が生え始める時期は注意が必要です。妊娠中のうちにお母様のお口の中の虫歯や歯周病を整えておくことは、赤ちゃんの将来の虫歯予防にもつながります。

8. まとめ

本記事では、妊娠中の女性の身体に起きる変化がお口のトラブルを引き起こす仕組みから、歯周病と妊娠の関係、時期別の適切なケア方法、レントゲンや麻酔に関するよくある不安まで、歯科衛生士の視点から解説してきました。

妊娠中の歯茎の腫れや虫歯の増加は、女性ホルモンの変化、つわり、食生活の変化、唾液の性質の変化などが重なって起こりやすくなります。これは珍しいことではありませんが、放置してよいという意味ではありません。特に歯周病は、お母様のお口の健康だけでなく、妊娠経過にも関係する可能性があるため、早めのチェックとケアが大切です。

つわりがつらい時期は、小さな歯ブラシを使う、歯磨き粉を使わずに磨く、うがいをこまめに行うなど、できる範囲でお口を清潔に保ちましょう。そして安定期に入ったら、妊婦歯科健診やクリーニングを受け、虫歯や歯周病がないかを確認することをおすすめします。

妊娠中は、ご自身の体調の変化や出産への不安で、お口のケアが後回しになってしまいがちです。しかし、お母様のお口の健康状態は、赤ちゃんを迎える準備のひとつでもあります。熊本県上益城郡のひがし歯科医院では、プレママの皆様が不安や苦痛を感じることなく安全にマタニティライフを過ごせるよう、お腹の大きさやつわりの状況に配慮した歯科ケアをご提案しています。最近歯磨きのときに出血がある方、つわりがひどくて虫歯になっていないか心配な方は、体調の良い日を見計らって、まずはお気軽にご相談ください。


著者紹介

歯科衛生士 大野

熊本県上益城郡のひがし歯科医院にて、予防歯科、歯周病ケア、妊娠中の口腔ケア、定期メンテナンスなどを担当。患者様が安心して通院できるよう、体調やライフステージに合わせたわかりやすい説明と、無理のないセルフケアの提案を大切にしています。