【楔状欠損】歯の根元が削れてしみる!「知覚過敏」の原因は歯磨きの強すぎ?それとも歯ぎしり?
- 歯のトラブル
こんにちは。熊本県上益城郡の歯医者、ひがし歯科医院の歯科衛生士 大野です。鏡でご自身のお口の中を見た時、あるいは指で歯の根元を触った時に、「あれ?歯の付け根がえぐれている気がする」「爪が引っかかる段差がある」と気づかれたことはありませんか?そして、その部分に歯ブラシが当たったり、冷たいお水を飲んだりした時に、「キーン!」と鋭い痛み(しみる感覚)を感じた経験はないでしょうか。
もし心当たりがあるなら、それは「楔状欠損(きつじょうけっそん)」という状態になっている可能性が非常に高いです。専門用語なので聞き慣れないかもしれませんが、簡単に言うと「歯の根元がくさび状(V字状)に削れてしまっている状態」のことです。これは、虫歯ではないのに歯が削れてしまう症状で、多くの大人の方に見られるトラブルの一つです。「毎日きれいに磨いているのに、どうして削れるの?」「虫歯じゃないなら放っておいてもいいの?」と疑問に思われる方も多いでしょう。
実は、この楔状欠損は、単なる磨きすぎだけでなく、無意識の「噛む力」が大きく関わっていることが分かっています。放置すると、知覚過敏がひどくなるだけでなく、最悪の場合、神経を取らなくてはならなくなったり、歯が折れてしまったりすることもあります。今回は、この「楔状欠損」について、なぜ起こるのかという意外な原因から、しみる痛みを止めるための治療法、そしてこれ以上削れないようにするための予防策まで、歯科衛生士の視点で詳しく解説していきます。
目次
- 虫歯じゃないのに歯がえぐれる?「楔状欠損」の正体と症状
- 原因は一つじゃない!「強すぎる歯磨き」と「過剰な噛む力」のダブルパンチ
- 削れた部分はどう治す?「プラスチック(CR)充填」による治療とメリット
- 根本原因を解決するために。「歯ぎしり対策」と「正しいブラッシング」
- 放置は危険!楔状欠損が招く「神経の露出」と「歯の破折」リスク
- まとめ
1. 虫歯じゃないのに歯がえぐれる?「楔状欠損」の正体と症状
「楔状欠損(きつじょうけっそん)」とは、その名の通り、歯の首の部分(歯頸部:しけいぶ)にあたる、歯と歯茎の境目が、まるで斧で木を切り倒す時のように、「くさび形(V字形)」に削げ落ちて欠損してしまう状態を指します。主に、犬歯(糸切り歯)や小臼歯(奥歯の手前の歯)の外側(頬側)によく見られます。鏡でよく見ると、歯茎の際(きわ)に段差ができているのが確認できるはずです。
この部分が削れると、どのような症状が出るのでしょうか。最も代表的なのが「知覚過敏(ちかくかびん)」です。歯の表面は、人体で最も硬い「エナメル質」で覆われていますが、歯の根元の部分はエナメル質が非常に薄く、その下にある「象牙質(ぞうげしつ)」という層が露出しやすい構造になっています。象牙質には、神経に繋がる無数の管(象牙細管)が通っているため、エナメル質が削れて象牙質がむき出しになると、冷たい水、風、甘いもの、そして歯ブラシの刺激などが、ダイレクトに神経に伝わり、「ズキッ」「キーン」とした一過性の鋭い痛みを感じるようになるのです。
初期の段階では、「なんとなく水がしみるかな?」程度で済むこともありますが、欠損が深くなると、常にしみるようになったり、歯磨きのたびに激痛が走ったりして、歯磨き自体が億劫になり、結果としてその部分が不潔になって虫歯を併発してしまうこともあります。見た目においても、歯の根元がえぐれて影になり、黒っぽく見えたり、歯が長く見えたりすることで、審美性を損なう原因にもなります。「虫歯菌」が原因で溶けるのとは違い、「物理的な力」によって歯が失われていくのが、この楔状欠損の大きな特徴です。
2. 原因は一つじゃない!「強すぎる歯磨き」と「過剰な噛む力」のダブルパンチ
では、なぜ硬い歯が、こんな形に削れてしまうのでしょうか。長年、その主な原因は「歯磨きの力が強すぎること(摩耗)」だと考えられてきました。確かに、硬い毛の歯ブラシを使って、研磨剤入りの歯磨き粉をたっぷりとつけ、ゴシゴシと横磨きを何年も続けていれば、歯の根元は削れてしまいます。これを「摩耗症(まもうしょう)」と言います。特に、几帳面で真面目に歯磨きをされる方ほど、力が入りすぎて削れてしまう傾向があります。
しかし、近年の研究では、それだけが原因ではないことが分かってきました。もう一つの、そしてより大きな要因と考えられているのが、「噛み合わせの力(咬合力)」です。これを専門用語で「アブフラクション」と呼びます。私たちは食事の時だけでなく、ストレスを感じた時や、重い荷物を持った時、そして何より寝ている間に、無意識に「歯ぎしり」や「食いしばり」を行っています。その力は、ご自身の体重以上とも言われるほど強大です。
歯に強い噛む力が加わると、その力は歯の根元(歯頸部)に集中します(応力集中)。歯は硬いですが、強い力がかかるとわずかにたわみます。この「たわみ」が繰り返されることで、歯の根元のエナメル質に微細なヒビが入り、ポロポロと剥がれ落ちてしまうのです。これがアブフラクションのメカニズムです。つまり、楔状欠損の多くは、「歯ぎしりなどの強い力で歯の根元が脆くなったところへ、強すぎるブラッシングなどの刺激が加わる」という、「過剰な力」と「摩擦」の複合的な要因によって進行していくと考えられています。だからこそ、治療においては、「削れた穴を埋める」だけでなく、「なぜ削れたのか」という原因にアプローチすることが不可欠なのです。
3. 削れた部分はどう治す?「プラスチック(CR)充填」による治療とメリット
楔状欠損によって削れてしまった部分や、それによる知覚過敏の症状がある場合、どのように治療するのでしょうか。欠損がごく浅く、しみる症状もない場合は、経過観察をすることもありますが、段差が深かったり、痛みがあったりする場合は、詰め物をして修復するのが一般的です。
最も広く行われている治療法が、「コンポジットレジン(CR)充填」です。これは、虫歯治療でも使われる「歯科用プラスチック」を、削れてしまったV字の部分に直接盛り足し、特殊な光を当てて固める方法です。
- 治療のメリット:
- 即日完了:型取りをする必要がないため、その日のうちに治療が完了します。
- 審美性が高い:歯の色に似た材料を使うため、詰めた跡がほとんど目立ちません。
- 知覚過敏の解消:露出した象牙質をプラスチックで覆うことで、外部からの刺激(冷たいものや歯ブラシなど)を遮断し、しみる症状を即座に和らげることができます。
- 汚れが溜まりにくくなる:V字の段差を埋めて滑らかにすることで、プラーク(歯垢)が溜まりにくくなり、虫歯や歯周病の予防になります。
- 保険適用:健康保険が適用されるため、費用を安く抑えることができます(3割負担で1本あたり1,000円〜1,500円程度が目安です)。
- 治療のデメリット・注意点: プラスチックは吸水性があるため、長年使用すると変色してくることがあります。また、前述した「歯ぎしり」などの噛む力が原因で楔状欠損になっている場合、詰め物をしても、歯がたわむ力によって、詰め物がポロッと取れてしまう(脱離する)ことがよくあります。何度も取れてしまう場合は、詰め直すだけでなく、噛み合わせの調整やマウスピースの使用など、力のコントロールを併用する必要があります。
4. 根本原因を解決するために。「歯ぎしり対策」と「正しいブラッシング」
削れた部分をレジンで埋めれば、見た目は元通りになり、しみなくなります。しかし、それはあくまで「対症療法」に過ぎません。削れてしまった「原因」を取り除かなければ、詰め物は外れやすくなり、歯はさらに削れ続けてしまいます。根本的な解決のためには、ご自身の生活習慣を見直す必要があります。
- 対策①:ブラッシング圧のコントロール もし、ご自身で「強く磨きすぎているかも」という自覚があるなら、今日から歯磨きの方法を変えましょう。
- 歯ブラシの選び方:毛の硬さは「ふつう」か「やわらかめ」を選んでください。「かため」は楔状欠損を悪化させる最大のリスクです。
- 持ち方と力加減:歯ブラシは鉛筆を持つように軽く握る「ペングリップ」にし、毛先が広がらない程度の弱い力(100g〜200g)で磨きます。
- 歯磨き粉の選び方:研磨剤(清掃剤)の粒子が粗いものは、歯を削るやすりのような作用をしてしまいます。「低研磨」または「研磨剤無配合(ジェルタイプなど)」の歯磨き粉を選びましょう。知覚過敏予防の成分(硝酸カリウムなど)が入ったものもおすすめです。
- 対策②:歯ぎしり・食いしばりへの対策 無意識の力(アブフラクション)が疑われる場合は、歯を守るための対策が必要です。
- ナイトガード(マウスピース)の使用:就寝中に装着するゴム製またはプラスチック製のマウスピースです。これを装着することで、歯ぎしりの強大な力をマウスピースが受け止め、分散させてくれます。これにより、歯の根元にかかる負担を減らし、楔状欠損の進行や、詰め物の脱離を防ぐことができます。保険適用で作製可能です。
- TCH(歯列接触癖)の是正:日中、何かに集中している時に、上下の歯を接触させたり、食いしばったりしていませんか?本来、安静時は上下の歯は離れているのが正常です。意識して歯を離すように心がけましょう。
5. 放置は危険!楔状欠損が招く「神経の露出」と「歯の破折」リスク
「ただ削れているだけだから」「水がしみるのを我慢すればいいや」と、楔状欠損を軽く見て放置してしまうと、取り返しのつかない事態を招くことがあります。
欠損が進行し、深くなればなるほど、歯の内部にある神経(歯髄)に近づいていきます。さらに進行すると、ついに神経が露出してしまい、激痛を引き起こすことになります(歯髄炎)。こうなると、単に詰め物をするだけでは治まらず、歯の神経を抜く治療(根管治療)が必要になってしまいます。神経を抜いた歯は、枯れ木のように脆くなり、寿命が大幅に縮んでしまいます。
また、楔状欠損によって歯の根元が極端に細くなってしまうと、そこがウィークポイントとなり、硬いものを噛んだ時などの衝撃で、歯が根元からポッキリと折れてしまう(歯冠破折)リスクも高まります。横から切り込みを入れた木が、倒れやすくなるのと同じ理屈です。歯が折れてしまった場合、その位置や状態によっては、歯を残すことができず、抜歯せざるを得なくなるケースも少なくありません。
たかが歯の根元の削れ、と侮ってはいけません。それは、歯からの「負担がかかりすぎているよ!」「磨き方が強すぎるよ!」というSOSサインなのです。このサインを見逃さず、神経があるうちに、歯が折れる前に、適切な処置と対策を行うことが、歯の寿命を守るために極めて重要です。
6. まとめ
楔状欠損について、その原因と対策をご理解いただけましたでしょうか。
- 楔状欠損は、歯の根元がくさび状に削れる症状で、知覚過敏の大きな原因となる。
- 原因は、「強すぎる歯磨き(摩耗)」と「歯ぎしり・食いしばり(アブフラクション)」の複合要因が多い。
- 治療は、「コンポジットレジン(白いプラスチック)」を詰める方法が一般的で、即日完了し、見た目もしみる症状も改善できる。
- 再発防止のためには、「やわらかい歯ブラシで優しく磨く」ことと、「ナイトガードで噛む力をコントロールする」ことが不可欠。
- 放置すると、神経を取ることになったり、最悪の場合、歯が折れて抜歯になったりするリスクがある。
「冷たい水がしみるな」「歯の根元がえぐれている気がする」と感じたら、それは放置してはいけないサインです。歯ブラシの選び方や磨き方を変えるだけで、進行を遅らせることができるかもしれません。また、夜間のマウスピース一つで、歯を守れるかもしれません。
熊本県上益城郡のひがし歯科医院では、楔状欠損の治療はもちろん、患者様一人ひとりの原因(ブラッシング圧や噛み合わせ)を見極め、最適な歯ブラシの処方や、ナイトガードの作製など、根本的な解決策をご提案させていただきます。大切な歯が折れたり、神経を失ったりする前に、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
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